2022年の 営業戦略
■ 回復傾向ではあるが、依然厳しい稼働
新型コロナウイルス感染拡大はBtoC業種へのダメージがとても大きく、2022年2月現在(執筆時点)でも飲食、宿泊等の業種は依然回復とは程遠い状況です。
もちろん同じBtoCであるパチンコ業界も同じです。
これは遊技客においてコロナ禍の真っただ中において「パチンコに行かないことに慣れた」という層が少なからずいたからだと思われます。
神奈川県に住む会社員・Aさん(20代男性)は、学生時代からのパチスロファン。主に週末にパチスロを打っていたという。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって、その生活は変化した。
「ここ数年は、パチスロにどっぷりハマるというよりは、なんとなくストレス解消がてら、惰性で楽しんでいた感じ。そんななか外出自粛生活になって、パチンコ店に行けない状況ができたら、途端に興味を失いました。前なら、暇な時間があると、“ちょっと打ちに行こうかな”なんて思ったんですが、強制的に行けなくなると、すっかりその習慣が断ち切られ、今はまったくそういった発想にならなくなりました」
コロナ後のパチンコファン 完全にやめる人、打つ頻度が増えた人(Yahoo!ニュース、リンク切れ)
お店の営業施策についてみてみると、営業再開後も広告宣伝の自粛が継続された期間があり、またいわゆる「3密」を避ける意味で混雑した賑わい感のある営業を志向できなかったことも関係しているでしょう。
これまで入替とイベントを営業の軸にした期間が長かったので、その「武器」を封じられてしまうと「何をしていいかが分からない」状況に陥ったと思います。
■ 原因は「イベントと入替に傾倒した25年間」
1995年当時、パチンコ業界は「参加人口3,000万人、30兆円市場」と言われていました。しかし現在がどうなっているかというと「参加人口1,000万人、20兆円市場」と縮小しています。
(売上規模と粗利規模の推移 | パチンコ業界WEB資料室)
この25年間の動きとしては、
・新台入替の大型化、回数増加
・イベントの開始、回数増加
がありました。
1998年の5回リミッター遊技機の導入あたり(※1999年に撤廃)から遊技機スペックの均一化が進み「入替をしても稼働が伸びない」ことが顕著となったことで、「イベント」を行ってのテコ入れを図るようになります。最初は曜日固定、その後は店名と絡めた特定日の設定が進み、イベント開催を専門に請け負う業者やライター演者の登場によりイベント熱が過熱することになりました。
当初の「イベントの位置づけ」は、
・弱い日(曜日)のテコ入れ
という点に主眼が置かれていたと思います。その意味で平常営業を軽視することはなく、「弱い日(曜日)だからこそ、平常+α」の営業がおこなわれていました。
これは「戦略の基本」に即しています。2000年前後はまだ強弱の格差も少なく、大多数にとって「弱い部分を補う」戦略が有効に作用する時期でした。(強者は弱みを補う方向性が正しい)
ところがその後の市場自由化、新自由主義的政策はパチンコ業界にも影響を与え「二極化」が広がっていきました。この場合、「弱者は強みを伸ばす」戦略が有効に作用することから、こぞって「強い日、曜日を作ろう」と動き出します。
そして現在、イベントはあって当然という時代となりました。
しかし、そのイベントがうまく機能していないというのも現実です。
■ イベントの“罪”
「イベントを開催することであまり来店されなかった遊技客の呼び込みを行い、次回の来店につなげる」
これが当初思い描いたイベントの効果です。確かにこのような効果を得られていた時代はありましたが、残念ながら現在はそうなっていません。
「強い日を作る」とはいえ現実的な問題、つまり「粗利益確保」は必要です。そうなると少しずつでも平常営業日を下げざるを得ず、イベント日に出す代わりに通常日に来店していただいている常連客から財源を取ることになります。この繰り返しで平常営業が落ち込むことに対応するとイベントを開催しても放出ができなくなり、イベント日自体の集客力も落ちていくことになりました。
それでもイベントという「劇薬」に染まっているのでイベントをやめるという選択は考えられず、惰性でイベントを繰り返して信頼を失い稼働が落ちて、という悪循環にハマっているお店がとても多いです。
■ 「平常の営業」を重視する
今、イベントでの集客は一部の信頼度の高い店舗以外では有効に作用するとは言い難い時代です。今回のコロナ禍で営業自体がリセットされたことをチャンスととらえ、今の既存客維持にもっと目を向けるべきだと思います。
パチンコ業界は成熟期です。
導入期や成長期には拡大路線=新規客の獲得を目指すことが業績の向上に大きく寄与しますが、成熟期においては既存客の維持が求められます。
成熟期は、市場に製品が行き渡っているため、成長期に比べて需要が少なくなった段階です。企業側から積極的に製品を売り込み購買にこぎつけるという通常の営業スタイル(プッシュ型営業)では、利益効率が悪くなってしまいます。
したがって、成熟期には、釣り糸を垂らして顧客が来るのを待つ「プル型営業」にシフトするのが好ましいでしょう。具体的な方法としては、WebサイトやSNSなどを通して消費者に有益な情報を提供し、顧客に自社サイトを訪問してもらう、というものがあります。
また、成熟期には、既存顧客の維持も重要な課題です。クーポンの提供や割引などを積極的に行い、顧客が離れていかないような工夫をしましょう。
(製品ライフサイクルとは? 初心者のためのマーケティング講座)
イベントの目的は新規客の獲得のためです。もちろん既存客のために行う側面もあるでしょうが、主眼は新規客の獲得です。
そしてそれがうまく機能しない事実、また積極的な顧客獲得を図ることを自粛しなければならない社会情勢を鑑み、今の方向性は「既存客の離反防止」です。
既存客離反の防止、つまり平常の営業を重視することがこれからの時代に求められる営業戦略です。
なお既存顧客重視の戦略についてはこちらで詳しく述べています。
”既存客層”にいる”新規”に目を向ける
https://www.ab-c.jpn.com/3395
※本コラムは2020年7月23日にアップしたコラムの改題、加筆修正版です。
(了)