私は本を読むのが好きである。
ただ300ページくらいあると、正直内容をあまり覚えていられない。とても参考になったな、という気持ちと共にそれが自分の中に残る(腑に落ちる)という感覚もなかなかつかめなかったりする。
セミナーや講演でも同じだ。
2時間くらい話を聞いても、そのときは感銘を受けるのだがすぐに忘れる。
だから書籍やセミナー、講演で私は「一つだけ、持ち帰る」という気持ちで臨んでいる。
そんな私が最近聞いた講演で「腑に落ちた」と感じたことがあったので、今回はその話をしようと思う。
安全圏にとどまっていて、何を得る?
先日、所属する経営研究会の例会があり、ゲストスピーカーとして来られた作家の喜多川泰先生の講演を聞く機会があった。
私は知らなかったのだがかなりの人気作家先生らしく、先生のファンらしい多数の一般オブザーブも聴講されて大盛況となった。
喜多川先生は教育に関する小説を多数発表されており、講演内容はビジネスにも人生にも大変参考になる素晴らしいものだった。
その中で一番印象に残った一節を紹介したい。
「When I’m at a harbor, the ship is safe, but then business of the ship isn’t accomplished.」
ケインズ理論で有名な経済学者、ケインズの言葉である。日本語訳では「船は港にいれば安全だが、それでは船の用をなさない。」となる。
船は出航すれば当然劣化するし、また乗組員は生命の危険もある。目的を果たせずに迷うこともあるかもしれないし、不本意な結果で戻ってくるかもしれない。だからと言って大切に保管してもそれは船のすべきことを果たしていない。
私はこの一節を聞いて、背筋に電流が走った。
会社、仕事ではそれぞれに自分がすべきことがある。もちろん家庭においても、だ。失敗を恐れて安全圏に身を置いて、それで何が得られるだろう?失敗を恐れて行動しないことにどんな意味があるだろう?失敗を恐れるよりも何も得られないことを恐れよう、そう、行動しよう!
終了後の質問
終了後の質疑応答でも印象に残った素晴らしい質問があった。
ある一般オブザーブの女性が、
「先生の書籍は人生において大変参考になる素晴らしいものばかりです。ただ、そこで学んだことを子どもや、また会社において伝えようと思ってもうまくいきません。私が言っても伝わらないのです。同じことを伝えても『誰が言うか』という点で説得力がないと思うのです。どうすればいいでしょうか。」
と先生に質問したのである。
これは確かに私も思う。
過去、私もコラムにおいて「『何を』、ではなく『誰が』、が重要」と書いている通り、たとえ同じもので表現者が違えば重みが全然違うと考えていた。(食事の機会でも同様だ。何を食べるかよりも誰と食べるかが、楽しいかどうかのとても大事な要件となる。)
そしてこの女性の質問の通り、どれだけ学ぼうともそれをアウトプットする場面で自身の力不足、力量不足、影響力のなさを痛感する場面はとても多い。
そしてこの質問に対する喜多川先生の返答がまた素晴らしいものだった。
喜多川先生は、
「確かに誰が言ったことなのかは、受け取る側にとっては重要だと思います。しかしその時に『自分の言葉で伝える』、『実践をする』ことの意識を加えれば、それは貴方の言葉として生きてくるのではないか、と思うのです。」
この返答にも私は背筋に電流が走った。
「自分の言葉にする」、まさにこれが足りないから私は影響力を発揮できないのではないだろうか。
「○○という著名人がこう言っている~」、この伝え方で果たして他者は共感するだろうか。
知力は3つある、と言う。
・インプット知力
・プロセス知力
・アウトプット知力
この3つの知力のなかで特に重要なのが他者に伝える能力であるアウトプット知力だとして、そのためには「知識を自身で咀嚼して理解する、プロセス知力」が機能しないとならない。この部分をすっ飛ばすから(インプットしたものをそのままアウトプットするから)、他者の共感を得られないのだ。
全部じゃない、何か一つ
今回の講演ではもちろん、上記以外でも様々なことを学んだ。だが、最も印象に残ったことは?と聞かれればこの船の話と、最後の質問とその返答だ。(「最も」が1つではなく2つだが)
講演もそう、書籍もそう。「すべて」を理解し自分のものにすることはなかなか難しい。「何か一つでも」持ち帰れれば、それが自分の成長につながるだろう。そういう意識で常に「学ぶ」という姿勢でこれからも行動していこうと思う。
(了)