長らくの間、戦略の基本は「自らの強みを最大限に伸ばすこと」とされ、そして最優先であるとされてきた。このアプローチは自社のコア能力(コア・コンピタンス)を活かし競争上の優位性を確立する上で確かに重要である。企業はその得意分野で差別化を図り、市場で成功を収めるために、自らの強みを最大限に活用すべきであるという考え方はとても理に適っている。
しかしながら、「強み最優先というアプローチがいつも最善とは限らない」という、新たな視点が現代のビジネス環境において浮上していることはご存じだろうか。
■ 強みにこだわりすぎるリスク
変化の激しい現代のビジネス環境では、これまで長年信じてきた「強みを伸ばすアプローチ」が常に最適な戦略とは限らない。なぜなら市場や技術、顧客のニーズは絶えず変化し続けており、一度の成功が将来にわたって続くことは保証されていないからだ。
強みを伸ばすことにこだわりすぎる企業は、新たな機会を見逃し、変化に対応する柔軟性を失いがちになる。
■ 弱点を無視することのリスク
強みに注力することは弱点に対するアプローチの優先度が低くなることにつながり、これは大きなリスクを伴う。
弱点が放置されると顧客サービスの質の低下や設備の欠陥など致命的な問題が発生する可能性が高まる。これらの内部要因に関する失策は自社の評判を著しく損ない、ブランド価値を毀損する恐れを含有する。
そしてこのようなダメージは修復することが非常に困難だ。なぜならこういったダメージは「徐々に」組織、自社を侵食していくので、問題が表面化するまでダメージとしての認識を持てないことが多く、気づいたときには手遅れになってしまう。
弱点の放置、それは組織全体に悪影響を及ぼし、持続的な成長を妨げるのである。
■ 「弱みを補う」アプローチの重要性
こうした背景から新たな戦略策定のアプローチとして 「弱みを補うことを優先する」という考え方が表れてきた。この発想は従来の「強みを伸ばす」アプローチを補完し、よりバランスの取れた戦略を構築する手助けをしてくれることにつながるのである。弱点を認識し、それに対処することで、組織はより堅牢な基盤を築くことができ、長期的な視点から見れば強みを伸ばすこと以上の価値を生み出すというものだ。
「弱みを補う」というアプローチは、以下の点で重要だ。
① リスク軽減
弱点を解消することで未来のリスクを軽減できる。内部要因に関する問題が事前に解決されれば市場変動や競合の脅威によるダメージを最小限に抑えることができる。
② バランスの改善
強みと弱点の両方に注力することで組織はバランスを改善し、不安定な状況に対処しやすくなる。これにより、持続可能な成長が促進される。
③ 組織の柔軟性
弱点を補うプロセスは組織の柔軟性を高め、変化に対応する能力を向上させる。組織は新たな機会や挑戦に適応しやすくなる。
■ まとめ
戦略策定においては「強みを伸ばす」ことと「弱みを補う」ことのバランスが重要だ。どちらか一方に偏ることなく、両方のアプローチを適切に統合することが必要なのだ。これまでどうしても優先順位の低かった弱みへのアプローチが、今日の競争激化するビジネス環境においてより重要であると言えるだろう。