10/3のABCコラムでは「モノの価格が下がるのは良くないこと」として インフレーション (と、デフレーション)の解説をしました。その時の結論は、
・インフレーション=モノの価格(価値)が上がることはお金の価値低下につながり、それが消費者の生活を豊かにする
というものでした。
しかし実はインフレにも2種類あり、必ずしもすべてのインフレが推奨されるものではありません。今回はこの「2つのインフレ」について述べたいと思います。
■ (1)需要増からの インフレーション
まず一つ目は「ディマンドプル・インフレーション」。需要増によってモノの価格が上がるインフレです。
一般的にモノの価格というものは、
・需要が高まると価格が上がる
とされています。
上図を見てください。これはDS曲線と呼ばれる図で、
・需要(Demand)は価格が低いと消費者は買いたいので数量が増え、高いと減るので右肩下がり
・供給(Supply)は価格が低いと売りたくないので数量が減り、高いと増えるので右肩上がり
という曲線(※経済学では直線のことも曲線と表現する)を描きます。
いま、もともと点Aで需要と供給のバランスが取れておりそのときの供給量と価格が決まっていました。ここで需要が高まると需要曲線が右に動くことになり(需要曲線がD1→D2に移動)、均衡するポイントは点Bに移り供給量も価格も上昇することが分かります。
「欲しい」という気持ちが高くなる(=需要が増加する)と少々価格が高くても人はその製品を購入します。そうなると企業も「もっと売りたい」となって供給量も増えることになり、これが好循環のモデルケースとなります。
■ (2)もう一つの インフレーション 、「コストプッシュ・インフレーション」
モノの価格は「原価+利益」で構成されています。
例えば価格1,000円の商品で原価が500円だった場合の利益は500円となりますが、ここで何らかの要因により原価が600円に上がったとしましょう。当然販売価格が据え置かれると利益が400円に減少するので、「同じ利益は確保したい」と考えたら販売価格は1,100円にしなければなりません。
このように原価の上昇、つまりコストの上昇によって引き起こされる値上がり=インフレを「コストプッシュ・インフレーション」と呼びます。
これを図で表すと需要曲線はそのままに供給曲線が左に動くことになり(S1→S2)、決して需要が高いわけではないので販売個数の減少、つまり需要の減少を引き起こすことになります。
そして、このコストプッシュ・インフレーションの先には非常に回復困難な状況を意味する「スタグフレーション」が待ち受けています。スタグフレーションとは「スタグネーション(停滞)」とインフレーション」の合成語で、経済活動の停滞(不況)と物価の持続的な上昇が併存する状態を指す概念です。
通常インフレーションは貨幣の価値低下により好況を作り出しますが(10/3のコラム参照)、スタグフレーション下では不況なのに物価が上昇するという非常に厳しい状況となります。日本では過去2回スタグフレーションに陥っており(1927年のモラトリアム施行時、1970年代前半のオイルショック時)、2015年以降の現在は3回目のスタグフレーション下ではないか、という指摘があります。
■ 需要を喚起することが大事
・需要増からの高価格化はその後の好循環を形成
・需要に変化がないままの高価格化は悪循環を形成
ということが分かりました。単にインフレーションを起こすことが有効になるのではなく、その要因の違いで全く逆の結果を引き起こすのです。
まずは需要喚起。これは一国という大きな単位ではなくパチンコ業界という小さな単位でも同じです。
安易な利益率や玉粗利、玉単価の上昇で売上/利益を確保するのではなく、需要=稼働向上からの売上/利益増を目指す営業が望まれます。そのために必要なことは顧客視点の営業展開、プロダクトアウト思考ではなくマーケットイン思考です。
(了)