■ 合理的な考え方、「筋肉質な経営」
「筋肉質な経営」、リーマンショック後に一時期流行し、その後もこの考え方による企業経営こそ21世紀の戦略だとされていました。
「筋肉質な経営」とは一言で言えば「徹底的に合理化し、コストを見直して、その浮いた体力を投資に回す」という考え方です。「厳しい事業環境で売上が上がらないからコストを下げる」という単なるコストカットとは違い、「投資に回す」ことが重要な管理点となっていました。
この考え方は論理的に一貫性があり、それまでの「売上至上主義、拡大路線」のイケイケドンドン、勢いだけの経営(営業)ではなく、「考えた経営(営業)」がシャープでドライな考え方として「Cool!(かっこいい!)」と世に支持されました。
戦略的な資源配分と効率性重視の経営(営業)は、リーマンショックに苦しむ企業の救世主的な考え方だったのです。
■ 危機的状況に効果が表れる、「 ダム式経営 」
さて時は2020年、世は新型コロナウイルス禍に襲われました。そうなるとこれら筋肉質な経営を志向していた企業は、もともとが絞る余力を持たない経営だったこともあり瞬く間に存続の危機に直面することになりました。代表的な例ではアパレル業界の苦境が表面化しています。
そこで最近にわかに注目を集めだした(正確に言うと再度注目が集まってきた)考え方があります。松下幸之助氏が提唱した「ダム式経営」です。
「ダムのようなものを、経営のあらゆる面にもつことによって、外部の諸情勢の変化があっても大きな影響を受けることなく、常に安定的な発展を遂げていけるようにする」。そのダムには「設備のダム、資金のダム、人員のダム、在庫のダム、技術のダム、企画や製品開発のダム」など色々あるとしているのですが、ざっくり言えば「余剰、余裕を持つ経営」です。筋肉質とは対極的な「ぜい肉質な経営」といえるかもしれません。「ダム」、言ってみれば余剰プールを持つことによって未曽有の危機が発生したときにバッファ(緩衝)となって衝撃が本体に襲い掛かることを防ぐということです。
ただしこの考え方の根本には「適正営業」があります。「市場とのバランスの適正値を知り、それに若干の余裕を常に持て」ということであり、やみくもに余裕を作っておくことではない事には注意が必要です。
(在庫を積み増したり遊んでいる人材を抱えておくだけの、“ムダ”とは違います)
■やろう、と思うことがすべてのスタート
さて、ある講演会で松下幸之助氏がダム式経営を説くと、参加者から「あなたは成功しているから余裕経営ができるのではないでしょうかか。今厳しい我々の立場がダム式経営をしようとしてもそんな余裕はないです。ダム式経営をするには、まず何をどうすればいいのでしょうか?」という質問が出ます。参加者はこの講演で、米国視察帰りの松下幸之助氏から最新の米国式経営手法を聞けると期待していたのです。
しかしその時の松下幸之助氏の答えは、「そうですな~、やはり『ダム式経営をする』という気持ちを心に持つことですな。やろう、と思わないかんですな。」でした。
「はあ?」
会場の空気は一気に白けたといいます。「私たちはその気持ちを持っているから具体的なことを知りたいわけで、気持ちで済むならこんなところに話を聞きに来るわけがない」、そんなところだったことでしょう。
ところがそんな聴衆の中で一人だけ、この言葉に感銘を受けた人物がいました。稲森和夫氏です。幸之助氏が言いたかったのは「心のダムの重要性」で、それがあるから行動が変わり会社が変わり、世の中が変わるということです。
稲森和夫氏は当時京都セラミック(現:京セラ)を立ち上げたばかりの若手経営者でした。「行動の前に心」、この時の話が強烈に頭に残ったと、後日PHP研究所発行の雑誌で述べています。(PHP研究所は松下幸之助氏が創設した出版社)
■ダム式経営は「心のダム創り」から
筋肉質な経営ももちろん大事です。しかし人間の肉体もある程度の脂肪がないと危機的状況に非常に弱いものであり、それは企業にとっても同じだということが今回のコロナ禍で浮き彫りになったといえます。
「ダム式経営」、心のダムをもつことがこれからの経営では必要になると思います。
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