「行動の要請」とはどういうことを指すのだろうか。
顧客は待っていても絶対に動かない。実はこの行動はとても重要なのである。
先日、親交のある方からLINEにて連絡が届いた。内容は、
・○月△日、19:00よりコアコンピタンスについての勉強会をZoomで開催するので来てください
というものである。
ちょうどその時間は自宅にいることがわかっていたので快諾の返信をしたのだが、案の定というか、失念しあっさりとその勉強会をスルーしてしまった。(せっかく誘っていただいた〇〇さんには本当に申し訳ないことをしてしまった。反省である。)
ここではZoomの特性(リアル参加しなくてもOK、どこでも参加可能、時間的空間的な制約をほぼ受けない)の話をしたいわけではない。
なぜ、私は忘れたのか?という点である。
至極簡単な結論を言えば、
・「自分から取りに行った情報ではなかったこと(受動的)
・予定時刻まで時間があったこと
が要因であろう。
この2つの要因は別々に作用しているようで、しかし実は密接に関わっている。すなわち、
・自発的な行動であれば、忘れない
からである。それがどんなに先の予定であろうとも。
私にとってコアコンピタンスに関することは、興味はあってもさほど重要案件とは思えないのは事実である。もちろん最新の理論や参考事例を知っておきたいと思うし、書籍や講演会とは違う「ライブの勉強会」だからこそのイレギュラーな話も期待していた。
しかし、忘れたのである。
この点、現在およびこれからのマーケティング展開において非常に重要な管理点ではないだろうか。
■ 行動の要請 とは自発的な行動を促すこと
企業におけるマーケティング活動の、その大部分は「プッシュ型」である。プッシュ型マーケティングとは企業側が広告(情報)を消費者に提供することであり、消費者はその意思に関わらず受動的に情報を受け取ることになる。大きくとらえればテレビやラジオのCM、小さくとらえれば企業の営業マンによる訪問営業が該当する。
プッシュ型の特徴は不特定多数に一斉に情報を提供できること(マス広告)、企業の情報を漏らさず伝えることができること(営業マン)であるが、反面、運用コストが高い。
そして、消費者は必ずしも自社の情報を求めているとは限らないということもある。この場合、興味のない消費者にとっては迷惑でしかなく情報はスルーされることになり、またこの割合が非常に多いという特徴も併せ持つ。なぜなら消費者の属性や趣味嗜好に関係なく一斉に情報を送ることになるからである。
マーケティングの世界では俗に「1%ヒーロー」といわれる。告知した相手の数に対して1%のヒットがあれば素晴らしい成果だ、というものだ。100人にリーチして通常は1人もヒットしない。であるならば1,000人にリーチすれば1~2人はヒットするだろう、もしも10人(1%)のヒットになれば素晴らしいのである。そして、もっと多くの成果が欲しければさらに多くのターゲットにリーチせよ、である。
だからこそプッシュ型マーケティングでは「数」を重要管理点とする。とにかく多数に自社の情報を届けることこそ成功へのカギなのだ。しかしこれは非効率的であり、運用コストも高いというのは上記のとおりである。
これに対して「プル型」と呼ばれる手法がある。プル型マーケティングとは消費者が自らの欲求を充足するために能動的に情報を取りに来るのを待つ手法であるが、ただ単に待つだけではない。消費者の課題、問題を解決する策を提示したり、または認識できていなかった課題そのものを提示したりすることで消費者の目を自社に向け(興味を惹きつけ)、消費者から能動的に自社へのアプローチを促すマーケティング手法である。
今回のZoom勉強会の件であるが、この時もしも「パチンコ業界でも活用できる事例がありますよ」などというようなお誘い文句があれば、自分から事前にちょっと調べるなどの行動を生み、その時間を頭に叩き込んで忘れることはなかっただろう。なぜなら与えられた情報が自分の課題に置き換えられることになり、「この勉強会に参加したい」という能動的な行動に転換するからである。残念ながら今回は「時間と場所(Zoom)」の告知のみだったので受動的行動の域を越えなかった。
なお、繰り返しになるが件の方のお誘いはとてもありがたいものであり、失念した私に完全に非があることを再度記載しておく。(申し訳ありません。)
■ 行動の要請 ≒ リマインド
どれだけ重要な案件でも人である以上、忘れることはある。そうならないためにはリマインドが重要だ。もちろん自分自身でスケジューラーを活用することは当然としても、それでも「もしも」はある。だからこそ、確実な行動の要請を促す場合にリマインドは欠かせない。
前日、当日、○時間前、直前などに「ちょっと多すぎかな?」と思えるくらいのリマインドがあれば、忘れることはまずないであろう。「どうしても来てほしい」ならこれくらいの行動が必要だ。逆にこういった行動をしないままで「集まらない、集客できない、他人が動かない」と嘆いているとしたら、それは投げかけた側の怠慢である。(何度も記載するが、これは一般論であり件の方に関しては私の問題であった。)
ここでひとつ面白い(?)例を挙げよう。
この3年間はコロナ禍の影響により研修やセミナーもオンラインで行う例が非常に増えていた。かくいう私も2020年~2021ごろ年には会場で行ったセミナーは片手で数えられる回数しかなく、ほとんどをオンラインで開催した。
その時の集客についてはほぼ例外なく次のような推移を示している。
・開催2週間前に告知開始、初動3日間で最終人数の30%程度
・11日前~3日前(9日間)での申し込みは最終人数の20%程度
・開催2日前と前日の2日間で最終人数の40%程度
・当日にも10%程度の申し込み
もちろんこの間、リマインドは欠かさない。何もせずにこのような推移はしないと思うが、「開催日が近くなるごとに申し込みが増える」のである。
これは行動や思考を考えれば容易に想像できる。
過去は会場に行くことを考えるとそれなりの準備、ネゴシエイトが必要だった。しかしオンラインであれば極端な話当日でも「あ、空いているから参加してみよう」という行動も喚起できる。(繰り返しになるが、リマインドは欠かせない。) ギリギリ直前でも行動を変える要請ができるということである。
それにしても、である。
直前2日間+当日で全体の50%の集客があったのである。オンライン時代はヒトの行動を大きく変えた。時間的、空間的な距離をなくしたというのはよく言われる話だが、「リアルタイムで行動を変える、心理的な距離をなくす」という効果も得られているのである。
■ ダイレクトに届く時代
「マーケティング」とは、「お客様のために行うすべての活動」のこと。もちろんその先には企業(自社)の利益に適う、つながることが必須ではあるが、あくまで出発点はお客様、消費者である。
今回の例でいえば「あなたにとって有益な時間になるはずだから」という好意であるとともに、その先には「この勉強会の活性化に一役買ってもらいたい」という思惑があったはずである。もしもその思惑を確実に遂行したいなら上記2つの行動(プル型になる行動要請、リマインド)を行うべきとなる。
今回の例は企業のマーケティングではないので「そこまでの行動」は必要ないかもしれないが、いろいろな施策において「成功させたい」という思いがあるならそのための行動、つまりプル型行動要請とリマインドを常に意識してほしい。
そしてオンラインの活用が普通のこととなった現在は、過去に比してその行動の効果がとても大きく、またダイレクトに届く仕組みが出来上がっていることをフルに活用すべきである。
(了)