「知らないということを、知る」、哲学者ソクラテスの言葉です。(正確な言葉は失念、調べてください。)
「自分は無知だという自覚があるから、学べる」ということを伝えている名言です。
でも今回のコラムはそのような意味での「無知」をお話しするわけではないです。
今回のテーマは「無知の“知”」ではなく「無知の“強み”」。「知らないということは強みになるんだよ」ということをお伝えしたいと思います。
■ 「知っている」から、間違える
高度な専門知識はルーティン作業において非常に有効に作用します。なぜなら、定められた手順に沿ってこなしていく日々の業務においては、高度な専門知識と経験があればいたってスムーズに処理を進めることができるからです。定型処理に関しては知識と経験がないよりある方が的確に進められますからね。
しかしこれまでの知識や経験が生かせないイレギュラーな状況に置かれた場合にどうなるかというと、逆にその知識と経験が足かせとなって問題の本質に切り込めなくなり、悪化する状況に何ら有効な手を打てなくなってしまう事例は非常に多くあります。(これを「専門知識の逆襲」と呼びます)
ここで「インテリジェンス・トラップ」(2020年 デビッド・ロブソン、日経BPマーケティング)から一例を引用します。
無知はむしろ強みではないか。
それを確かめるためにウイリアムソン(※ジョージタウン大学)は(銀行)100行の世界金融危機前後のデータを調べた。2006年以前(※リーマンショック以前)の経営成績はまさに、知識が豊富であるほど判断に役に立つという仮説を裏付けるものだった。取締役会に専門家が揃っていると、金融業界の経験のある社外取締役が少ない(あるいはいない)場合より経営成績がやや良かった。前者は大きなリターンが見込めるリスクの高い戦略を承認する可能性が高かったためだ。
しかし(リーマンショックにて)金融市場がクラッシュすると両者の明暗は逆転した。専門家の少ない銀行ほど経営成績が良くなったのだ。「専門性の高い」取締役は自らの下したリスクの高い経営判断に固執し、それを撤回して戦略を修正しようとはしなかった。
一方、専門知識の少ない社外取締役はそれほど頑なではなく、偏った意見も持っていなかったため、金融危機を受けて銀行の損失を抑えるのに貢献した。
これは(必ずしも合理的とは思われていない)金融業界の実例ではあるが、その教訓はどんな業界にも等しくあてはまる。状況が厳しくなったとき、そこから脱出する方法を一番よくわかっているのは、チームの中で最も経験の乏しいメンバーかもしれない。
(デビッド・ロブソン著「インテリジェンス・トラップ」P112)
リーマンショックという未曽有の金融危機に直面し、自らの専門知識と経験でその損失をカバーしようとした結果さらに損失を拡大させてしまった専門家と、損失の補填ではなくその損失を最小限にしようと考えた経験の浅い社外取締役では、結果的に後者の方がダメージが少なかったという話です。
このことが全てとは言いませんが、「自分は専門家なのだから、こうすべきだとわかる」という自負が、時に誤った経営判断につながることもある事例です。逆にシロウト意見だからこそ忌憚のない、ある種「ぶっ飛んだ」発想が生まれることは多いです。
■ 無知の強さ
「知らないから『“べき”思考』がない」
無知だからこそ既存の考えではない別の道を探る身軽さがあり、高度な専門知識を持つ者の固定観念の枠外の視点を持っています。
何事も経験を積み知識が豊富になると勝手に見通しを定める傾向があります。過去の成功体験があるのでイレギュラーな場面でもこれまでと同じことで対応しようとし、ある意味「現状のまま、現状ベースの方向性」を志向してしまうのです。
2021年現在、世界は新型コロナウイルスの影響で過去に経験したことのない状況に置かれています。もちろんパチンコ業界も同じです。
高度な専門知識からの発想はとても重要です。しかし、このイレギュラーな状況だからこそそこに「ある意味シロウト」の意見に耳を貸してはいかがでしょうか。
様々な場面で、ヒトは過去の経験と自らの持つ知識を基に「すべきこと」を考えて動きます。専門家であればその経験と知識は膨大なモノでしょう。
しかしシロウトは過去の経験があまり無いので全くのゼロベース発想となります。
そして経験が無いからこそ臆せず、大きな可能性に飛び込む事が出来て、自尊心に邪魔されず失敗を恐れないで動き、失うものがないので自分に正直に行動ができます。
「専門知識の逆襲」を回避し柔軟な発想で現状を変えるには、「無知の強み」も活かしていくとよいと思います。
=======================
面白かった、と思った方はポチっとお願いします。
↓
ビジネス・業界ランキング