シミュレーション
この文章は月刊アミューズメントジャパン誌にて連載されている「基礎から再確認 パチンコ計数管理 」の第19回、2020年12月号に掲載されたものです。
改めてウェブ上にアップすることで連載内容のおさらいになるかな、と思いますので、今後も定期的にアミューズメントジャパン誌の連載をアップしてまいります。
=======================
皆さん、こんにちは。アミューズメントビジネスコンサルティング株式会社の林秀樹です。計数管理に対して苦手意識を持つ方も多いと思います。この連載ではそういった苦手意識を克服していただくために、分かり易くお伝えしています。
今回は遊技機シミュレーションについての実践的な考え方をお伝えします。
■ シミュレーション で使う数値
「遊技機シミュレーション」、この連載でも何度も取り上げている遊技機運用の基準です。この遊技機シミュレーションをするうえで必要な計数項目はS、B、TS、TY、客滞率の5つですが、そのうち特にTSについて次のような疑問を聞くことがあります。
「Q.メーカー値どおりに動くことなど、あるのか?メーカー値に意味はあるのか?」
TSとは大当たりまでの回転数でシミュレーション上はメーカー発表のスペック値を使うことになっていますが、現実にはその数字になることは稀です。そういったことから、
・TSはこれまでの流れを考慮した数字で考えるべきではないだろうか?
という意見です。
シミュレーションはあくまでも模擬試験。現実の世界がその通りになるとは限りません。では、どのように考えればいいでしょうか。
■ シミュレーション はメーカー値で行うべき
結論から述べますと、
・シミュレーションはメーカー発表TS(スペック値)で行うべきである
となります。それは以下の理由からです。
(1) 分散
特賞確率が現実的にはメーカー発表値にならない理由、それは確率とは別で「分散」という統計学上の概念があるからです。
「分散」とはリスクのことでバラツキの程度を表し、分散の値が大きいほど期待値までの収束に期間が必要で小さいほど短くなります。そして分散は確率が小さいほど(確率の分母が大きいほど)バラツキが大きくなり(図①および②参照)、収束するには(95%の信頼度で誤差±1%以内に収まるには)、例えば1/300の確率の場合はおおむね1,100万回以上の試行回数が必要となります。
このことから日々または月単位でのバラツキはあって当然であり、予測される範囲内の出来事となるからです。
(2)完全確率
パチンコの特賞確率は完全確率で抽選されているのでどんな状況であっても確率は一定です。そしてその値は絶対に、「前回の結果には左右されない」という特徴があります。過去にどれだか深いハマりがあろうとも、逆にどれだけ短い間隔で当たろうとも現在の抽選には全く関係がない、これが完全確率です。
■ シミュレーション は根拠を基に考える
「これまでの過去実績が甘く動いてしまい、思うような運用ができていない。だからシミュレーションでのTS値をこの実績数値を使って行う。」
このように考える方もいるかもしれませんが、ここまで述べたようにこの考え方は誤りです。
第一には上記のとおり過去のことは影響しません。第二に、「もしも過去が影響する」というのならば、それは逆にTSを低く考えなければいけないはずです。「影響するのならば、過去の反動が来る」と考えなくてはいけないからです。しかしその「反動」がいつ、どのくらい来るのかが分からない、また、逆にまだ高いTS傾向が続くかもしれないとも考えられ、不確定要素しかありません。
メーカー値が正しいとは言えませんが、少なくとも基準として「根拠のある数字」ではあります。
なおここまでTSに絞って進めてきましたが、日々変動する数値としてTY(平均継続回数)と客滞率に関しても同様に「基準値」で考えるべきです。
■ ただし、縛られないこと
「シミュレーション」の定義は、
・何らかのシステムの挙動を、それとほぼ同じ法則に支配される他のシステムや計算によって模擬すること
であり、「同じ法則の基で」が前提です。
その上で「これは模擬試験であり、この計算結果を基にどう対応するか?」を考えるのが正しいシミュレーションの活用方法です。決してシミュレーション通りにするのが正しいのではないです。
遊技機シミュレーションは根拠のある数字を使うこと、そしてその結果に縛られるものではなく参考にすべきもの、参考値という認識を持ってください。
【今回のポイント】
・シミュレーションは、その条件を前提通りで行う
・現実の行動は、その結果に縛られない
・シミュレーションは参考値
(了)