「パラダイム」、よく聞く言葉です。
意味は「ある時代のものの見方、考え方を支配する認識の枠組み」のことで、要は「当たり前のこと」を指しています。
そしてこの単語は往々にして「パラダイムシフト」という使われ方をします。パラダイムをシフトする、つまり「当たり前の考えを、変える」ということです。
さて今回は数あるパラダイム(当たり前と思われていること)のうち、新台入替及び新台(新機種)の扱いを考えてみようと思います。
■ 「導入した遊技機は長く使う」、この考え方が支配していた時代
「新台を入れてもよほどの機種でない限りすぐに稼働が落ち込み機械代の回収さえ覚束ない」、こういわれ始めてどのくらい経ったでしょうか。
過去には新しい台が導入されるとお客様は「どんな台なんだろう?」、「オモシロいのかな?」、「出るかな?」という期待をもってお店に来ていただけました。情報が今ほどあふれているわけでもなく、また売り手からの発信も皆無だった時代の話です。
情報がない時代なのでお店としては「まずは遊んでいただき、楽しさをわかってもらう」努力をすることになります。具体的には「遊技性を体感してもらい、演出を楽しんでもらい、大当たりを経験してもらう」ために高回転営業での放出を志向し、これから長く使う(遊んでいただく)ためにこの導入される新台の「ファン」育成を図るのです。
お客様もそのことはわかっているので新台入替では並んででも新台をゲットしたい気持ちを持ちます。「新台入替」はパチンコ店で一番のイベントでした。
長く「新台入替」はこのような意味を持ったものでしたが、その後「ある考え方」が登場します。
その考え方とは以下のようなものでした。
■ プロダクトライフサイクル理論
この考え方は製品戦略におけるPLC(プロダクトライフサイクル理論)の「イノベーター理論」を応用した考え方です。
※「イノベーター」・・・革新的なヒト、の意。新しモノ好きで値段が高くともヒトと違う“最新である”ことに優越感を持つ。
※「アーリーアダプター」・・・流行に敏感で自ら情報収集をして新しい商品やサービスなどを早期に受け入れ、消費者に大きな影響を与える。 オピニオンリーダーとも呼ばれる。
※「アーリーマジョリティー」・・・比較的慎重だがそれでも早めに手に入れる大多数。
※「レイトマジョリティー」・・・かなり慎重で全体にいきわたったことを見定めて「定番」になった段階で手に入れる、遅めの大多数。
※「ラガード」・・・「伝統的なヒト」の意。頑なに新しいものを受け入れず最後まで抵抗し、現在の製品が時流に合わないとなった段階で渋々新しいものを購入する。しかし使う気はあまりなく「前の方がよかった~」と嘆く。
新製品はイノベーター層にとっては「誰よりも先にそれを知る、体感する」ことがステイタスであり優越感のモトとなるので、そこに”価格”という判断基準は(あまり)ありません。むしろ「高い」ほうが満足度が高くなることも。世間が知る前に知り、「あ~、アレね!」と話せるというベネフィットが最優先です。
さてパチンコ店における「新台入替」、新製品の投入はイノベーターを刺激すると考えたとします。
「彼らイノベーターは価格をあまり気にしないのだから、新台は少し高めの価格(玉利、利益率)で運用し、市場にいきわたり始めてから価格(玉利、利益率)を下げる運用がいいのではないか?」
これも価格戦略の定石のひとつで「スキミング価格」と「ペネトレーション価格」という考え方に沿っています。
※スキミング価格・・・「上澄み吸収」の意。導入初期に高価格で回収を図る。イノベーターが価格に鈍感であることを逆手にとった戦略。
※ペネトレーション価格・・・「市場浸透」の意。低価格で製品の普及を図る戦略。
この戦略は当たりました。「新台での放出は行わずに高玉利で運用し、それを財源として新たな遊技機の購入費または既存機種の放出に充てる」手法です。
お店としては定番となっている機種を長く使いたい、新台はまだその可能性は未知数であり台数も(定番機種よりは)少ないのだから来店客の圧倒的多数が打つ既存設置機種に出玉を回すほうが顧客満足を向上させられる、新台での顧客満足は「最新台を遊べること」で提供できている、こう考えたワケです。
再度言います。
この戦略はピタリとハマりました。
そしてこの戦略がどんどんと広がることで、いつしか「新台は出ない、出さない」が当たり前となってしまったのです。
しかしこれは情報が少ない時代の話です。現在、上記のようなことが起こっていないと感じる方は多いでしょう。
■ 遊技機メーカーの動きも影響した
ここで視点を変えて遊技機メーカーの戦略の変遷を見てみましょう。
パチンコ店は使っていくことが仕事ですが、メーカーは売るのが仕事です。
過去には営業マンによる売り込み=プッシュ型営業で顧客であるパチンコ店に「こんなのが出ますよ~」という営業をかけていましたが、それよりももっと効果的な営業方法を考えつきます。それは「パチンコ店の顧客であるユーザーに働きかけることで、パチンコ店に『お客様が求めているのなら~、話題になっているのなら~』と考えて購入していただく」営業です。
これはB2Bの先、つまり「顧客の顧客から、働きかけてもらう」という考え方で「B2B2C」と呼ばれる考え方です。
※「B2B」・・・Business to Business、企業が企業に行うマーケティングのこと。
※「B2B2C」・・・Business to Business to Consumer、自らの直接の顧客である企業にとっての顧客へ働きかけを行い、顧客企業が自らを頼るように行うマーケティングのこと。
そうなるとメーカーは率先してC=Consumerつまり一般ユーザーに情報を提供します。折しも時代はインターネットが爆発的に広がりだした時期、さらにウェブ2.0での双方向、多方向時代と重なりました。情報に聡いことは特別なことでも何でもなく、普通にしていても手に入る時代になっていったのです。
さらに悪いことに「最新台であることに優位性を持つ層に訴求するため」として全国どの店も最短納期を志向しだし、結局最新台も横一線の導入なので決してイノベーターだけの特権とはならなくなりました。こうなるとパチンコ遊技客におけるイノベーター層は「最新台を遊技する」ことに優越感は持ちづらくなります。
むしろイノベーターは打つ前に情報を集めることでその優越感を充たせてしまうようになりました。ネットにあふれる「新機種情報、先取り情報」の発信者はその最たる例で、そこにアクセスして少しでも早く情報を得ようとする層を含んだ方たちが現在のパチンコユーザーにおけるイノベーター層、と言えます。
しかし一度固まった思考はなかなか転換することができません。この場合の「転換」は「新台は出さなくてよい(出す必要がない)」という思考を変えること、です。
「新台には魅力が薄いのだから長持ちもしない、出すだけ意味がない」
いつしか思考は「新台で出すことはない」だけが残り、そして新台入替というイベントは形がい化し魅力がなくなっていきます。
■ 現実がおかしいなら、志向と手法を変えなければいけない
さて冒頭のお話です。
「新台を入れてもよほどの機種でない限りすぐに稼働が落ち込み機械代の回収さえ覚束ない」、これは稼働をつけよう、長持ちさせようという努力をしなくなったことに起因しているのではないでしょうか。
今一度ここまでの流れを整理します。
① 入替は導入機種を披露する場
~あるとき新しい考え方が登場~
② 新台を打てること自体がベネフィットと定義
③ イノベーター層に訴求、スキミング価格でも大丈夫
④ スキミングで得た利益は新たな機械代または既存台放出原資
~この戦略と戦術がピタリとハマる~
⑤ 全店が同じことを志向、イノベーターが反応しなくなる
~そもそも新台を厳しく使うので稼働がつかない~
⑥ いつまでたっても入替サイクルから逃れられなくなる
この「新台で出す必要はない」という流れが決定づけられたのは「マーケティング理論の(誤った)捉え方」が発端です。
・新台を打ちたいという欲求に応える
・その欲求の対価として高い利益の確保は許容される
もう一度言います。
この戦略は当時ピタリとハマりました。
しかし「当時」なのです。
時代は変わっていっています。
当時はこのやり方があっていた、正しかったのは事実ですが、それが今も通用するとは限らないです。そして現実に通用していません。
新台の情報が氾濫している今、打つ前からその機種のことを大勢が知っている状況の今、「最新台であること」の優位性は薄れています。
通用しないのだから思考を変えて、戦術を変えるべきです。
■ パラダイム を、変える
と言ってもなにも斬新な、革新的な思考を生み出す必要はありません。一つの方策として私が提案する戦術は、「長く使うことを前提としたメンテナンスを志向する」です。
もちろん中にはどうやっても長持ちしないような機種を導入してしまうこともあるでしょう。しかしそれは今回の問題とは別の話です。(遊技機の吟味、商品選択の目利き)
長く使うことを前提として導入機種を選択し、長く使うことを前提とした使い方をすべきです。
過去、何度も「パラダイムシフトを志向せよ」というようなセミナー、提言がありました。
※パラダイムシフト・・・その時代に当然と考えられていた物の見方や考え方を劇的に変化させること。そこから派生して「定説をくつがえす」「ステレオタイプを捨てる」「革新的なアイデアによって時代を変える」ことをいう。
・「監視」から「おもてなし」へのホールスタッフ接客のパラダイムシフト
・入替の考え方のパラダイムシフト
・利益率から玉粗利、台粗利志向へのパラダイムシフト
・低貸玉パチンコへのパラダイムシフト
・HCのスタート重視から1000円スタート重視へのパラダイムシフト
・イベント内容のパラダイムシフト
パラダイムシフトの例は枚挙に暇がありません。
そして今、新台の扱い及び新台入替に対するパラダイムをシフトしてほしいと思います。
「新台入替は新台を自店のお客様にお披露目し、これから長く遊んでもらいたい想いをお伝えする」
新型コロナ禍において狭くなった商圏では新規客を呼び込むよりも既存客及び既存客周辺の客層への訴求が有効です。
「新台入替は新規客のためではなく既存客のために行う」、これが今回のパラダイムシフト、となるでしょう。
新台入替に魅力がないと嘆くのではなく、「どうすれば魅力を生み出せるか」を考えることがこれからの時代に必要な思考です。
■ 利益と稼働を両立する考え方
-稼働を上げるには、出さなければいけない
-利益を上げるには、シメなけれないけない
この思考は間違っています。
アミューズメントビジネスコンサルティング株式会社では一貫して「利益を増やせば、稼働は伸びる」とお伝えしています。
なぜそう言えるのか?
その答えはこちらをご覧ください。
⇒ https://www.ab-c.jpn.com/8655