■ ゼロゼロ融資からの返済スタート、予測した通りの状況が広がっている
「2023年は「倒産増加必至」六重苦の年!ゼロゼロ融資終了、円安、物価高…」
2022年11月6日、ちょうど1年前のダイヤモンドオンラインの記事のタイトルである。
以下に引用する。
倒産「六重苦」が企業に迫っている。
コロナ禍により壊滅的影響を受けたはずの2021年の倒産件数は、実は歴史的低水準だった。背景には、融資の優遇など政府のがむしゃらな対応があった。
そんな状況から一転、22年度上半期の倒産件数は増加に転じている。
ゼロゼロ融資の終了や円安、物価高……。
本来ならば成長力の低い企業を無理やり延命させてきたのならば、たまったマグマは、いつか大きく噴火する可能性がある。
そして現在、2023年11月。
帝国データバンクからは次のような発表があった。
【全国企業倒産集計2023年10月報】
・倒産件数・負債ともに今年2 番目の高水準
・年間件数はコロナ禍前の水準に
https://www.tdb.co.jp/tosan/syukei/pdf/2310.pdf
10月度倒産における業種分類を見ると「サービス業」の「娯楽業」では、
・件数 8件(前年同月15件)
・負債額 1,123億6,800万円(前年同月6億2,800万円)
となっている。
負債額が突出しているのは10/30に民事再生手続きを申請したGAIAがあるからだろう。(報道ではGAIAの負債額は遊技業以外の関連会社を含めて7社で1,133億円とされている)
コロナ禍におけるゼロゼロ融資の据え置き期間は通常1~3年で設定していたケースが多い。そうなると2023年の現在は2020年夏に受けた融資の返済がスタートしていることになる。
「融資」ということは当然借金である。もちろんいずれ返済が始まる。いくら「ゼロゼロ融資」として無利子無担保だとしても元本の返済があるのである。
融資を受けた段階では「当面の資金繰りは安心できた、コロナ禍を乗り切って頑張ろう」と思っていたはずだ。
しかし現実はコロナ禍こそ収束に向かったが、円安、人手不足、資材高騰等で販管費(経費)の上昇を招き思うように経常利益が残らなくなっている。
結果、借りたカネを返せなくなっての倒産が激増なのである。
コロナ禍におけるゼロゼロ融資は本来淘汰されるべき企業が延命されただけであり、日本企業の底力を押し上げるものではなかった。
■ パチンコ業界の現状
さてパチンコ業界である。
パチンコ物件ドットコムさんの開店閉店情報集計で2023年度10月までを確認してみよう。
上半期 開店51 閉店▲417
下半期 開店27 閉店▲211
トータル 開店78 閉店▲628
差引純増減 ▲550
10か月で純減▲550ということはこのペースだと年間では▲660となる。
(550店舗÷10か月×12か月)
この数字をコロナ禍が始まった2020年以降の純増減と比較すると以下のとおりとなる。出典は全日遊連「全国遊技場店舗数及び機械台数」より。
https://www.zennichiyuren.or.jp/material/report/
2019年末店舗数 9,639店舗
2020年末店舗数 9,035店舗(▲604店舗)
2021年末店舗数 8,458店舗(▲577店舗)
2022年末店舗数 7,665店舗(▲793店舗)
そして2023年は前述のとおり10月末時点で▲550なので12月推計では▲660となり、実数としては昨年を下回る予測だ。
それでもコロナ禍が直撃していた2020年~2021年よりも多い。上記はコロナ禍以降での比較だが、もちろんコロナ禍以前の純減数はもっと少ない。
パチンコ業界、そのうちホール業界においては「風俗営業」という位置づけによりこれまで公的融資(政府系融資)は受けられなかった。それがコロナ禍において緊急を要するとして2020年5月、セーフティネット保証5号が全業種に適用されることになり、パチンコホールも融資を受けられることとなる。
実際問題、コロナ禍以前からパチンコホールの経営は遊技機費用の高騰、過当競争による顧客減、交換率の上昇による利幅の減少など様々な要因で悪化の一途であった。おそらくコロナ禍がなくともジワジワとホール数減少の流れは変えられなかったと思われる。
ある意味コロナ禍(による、政府系融資の開放)はそういった経営環境が悪化の一途をたどるホールに延命の機会を与えたに過ぎなかった。決してそれは「再生の機会」ではなかったのである。
ゼロゼロ融資によって得られた資金を基に業績回復のための投資ができた企業は生き残り、当面の資金繰りや補填に充てていた企業は淘汰されていく。
パチンコ業界に限らずこれはどの業界、企業でも同じである。
■ 競合が減ることのメリットとデメリット
ここまでは事実を確認してみた。
では次は、この事実を基にホールが、そこで働く一人ひとりがどうしていくべきかを考えようと思う。
まずはミクロ的視点で考える。対象は商圏内の競争環境である。
競合店舗の閉店は自店への顧客流入の機会と考えられ、実際にこのコロナ禍においてそういった現象を確認することもできた。「競合の撤退で業績の回復」という棚ぼたがあった店舗もあろう。商圏内の競争という視点では競合が減ることは明らかにメリットが多いように思える。
「業績の向上」、つまりメリットを簡単にまとめると以下のようになる。
<競合が減ることのメリット>
① 顧客基盤の拡大
競合店の閉店は自店に新しい顧客を引き寄せる可能性がある。これは短期的に見れば売上と市場シェアの増加をもたらす。
② 価格設定の自由度
競争が減少することで、価格設定における自由度が増し、利益率を高める機会が生まれる。パチンコ店の営業でいえば玉利の設定を強気にできることを意味する。
③ 市場支配力の強化
競合が減少すると残った店舗はより強い市場支配力を持つことになりその地域でのブランドの地位を強化できることにつながる。
競合店が撤退した商圏では上記のようなことが感じられたと思う。しかしそれは短期的なことで、コロナ禍に撤退した競合がある地域で一時的に業績向上があった店舗も現在はそういった恩恵を感じられなくなっていることはないだろうか。これこそが次に挙げる「競合が減ることのデメリット」だ。総じてデメリットはマクロ的視点から来るものとなる。
<競合が減ることのデメリット>
① 市場の縮小
競合が減ることが全国的に発生する、つまり業界全体が縮小すると業界の長期的な成長機会が低下する。健全な競争環境が顧客基盤の拡大にも寄与するのだが、店舗数が減少すると全体的な新しい顧客の獲得が難しくなる。これにより市場の縮小を招き、いわゆる製品ライフサイクル理論での「衰退期」を迎えることにつながる。
② 革新の欠如
一般的に競争が少なくなると革新や改善の動機が減少する。競争環境にないために新しいことに取り組むことや積極性が失われるのだ。これは長期的には自店の競争力を低下させる。
③ 業界の悪い印象
競合が閉店するという事実はその商圏内に「業界全体の健全性に対する悪い印象」を与える可能性が高まる。昨今のパチンコ業界に対するネガティブイメージはこの「業界の縮小」からくるものが多いことがこの証左と言える。
■ どうすべきなのか
① 総論
自店にとっての総合的な影響は複数の要因に依存する。短期的には顧客の流入と市場支配力の向上により有利な状況になる可能性が高いが、長期的には市場の縮小や革新の減少が自店の成長機会に影響を及ぼす恐れが大である。そのため、競合の減少が自店にとって長期的に有利かどうかは市場環境、自店の適応能力、および業界内での戦略的ポジショニングに大きく左右されるといえる。
重要なのはこの状況を自店の戦略的計画に取り入れ、新しい市場のニーズに応える革新的な方法を見つけることとなる。これにより短期的な利点を最大化し、長期的なリスクを最小化することができるはずだ。
② 各論
競合の減少は商圏内ではハッキリと「機会」と言える。これは間違いない。なぜなら自店は「生き残った」のだから。
単に競合が減ったことによる短期的な客数増、業績の向上は外部要因であり自店の力(=内部要因)ではない。外部要因の機会を「活かす」行動を伴って初めて結果が得られると思ってほしい。
・出し方
・販促、広告
・演出
・遊技環境整備
・接客
商圏内の店舗が閉店すれば多かれ少なかれ自店に好影響はある。しかしそのままではいずれ元に戻るのである。それはマクロ的視点でのデメリット、つまり業界全体への負のイメージが発生するからだ。そうなる前に、その機会を活かしてほしい。
今、既にその機会を失って久しい場合はどうするか。これは、もちろん機会は失ったとしてもすべきことは変わらない。上記「機会を活かすために」行うべきことをこの場合も進める必要がある。
要は「どんな時でもすべきことは同じ」、戦略の基本は変わらないのだ。
閉店店舗数が増える業界環境、しかし自店は「生き残っている」。
「当たり前のことこそ最善の戦略」として地道な取り組みを愚直に進めることを志向して欲しい。
(了)
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