だれをバスに乗せるか
「”組織”は”戦略”に従う」
(アルフレッド・D・チャンドラー)
「”戦略”は”組織”に従う」
(イゴール・アンゾフ)
上記は真逆なことを言っているように見えます。
「組織は戦略に従う」という考え方の主従関係は、
・戦略が先にあり、その目指すべき未来、ビジョンに合わせた組織形態を構築すべき
となるのに対して、「戦略は組織に従う」という考え方での主従関係は、
・現状の組織をベースに、その組織を生かした戦略、未来を目指すべき
となります。
■ ”誰を”よりも”目的とビジョン”を優先
さて、有名な経営学者のピーター・F・ドラッカーはその著書「マネジメント」にて以下のように提言しています。
「組織構造についての結論。組織構造は目的達成のための手段である。それ自体目的ではない。」
この言葉を的確に表現したのがチャンドラーの「組織は戦略に従う」という言葉でしょう。
企業には目指すべきビジョンや目的があり、そのビジョンや目的を達成するために活動するのですから、そのために必要な人材をそろえて適切な管理をしていくべきだという考え方です。
企業が永続するには経営者が明確なビジョンを示して従業員を巻き込み、同じベクトルの元に進んでいくことが必要とされているので、この点でこの考え方はとても理に適っています。
■ 教育よりも、採用が重要
これに対して経営コンサルタントのジム・コリンズはその著書「ビジョナリーカンパニー2」にて、
「だれをバスに乗せるか。最初に人を選び、その後に目標を選ぶ。」
と述べています。少し長いですが以下に引用します。
「第一に、『何をなすべきか』ではなく『だれを選ぶか』からはじめれば、環境の変化に適応しやすくなる。人びとがバスに乗ったのは目的地が気に入ったからであれば、10キロほど走ったところで行く先を変えなければならなくなったとき、どうなるであろうか。当然、問題が起こる。
だが、人びとがバスに乗ったのは同乗者が気に入ったからであれば、行く先を変えるのははるかに簡単だ。『このバスに乗ったのは、素晴らしい人たちが乗っているからだ。行く先を変える方がうまくいくんだったら、そうしよう。』。
第二に、適切な人たちがバスに乗っているのであれば、動機づけの問題や管理の問題はほぼなくなる。適切な人材なら厳しく管理する必要はないし、やる気を引き出す必要もない。
最高の実績を生み出そうとし、偉大なものを築き上げる動きにくわわろうとする意欲を各人がもっている。
第三に、不適切な人たちばかりであれば、正しい方向が分かり、正しい方針が分かっても、偉大な企業にはなれない。偉大な人材が揃っていなければ、偉大なビジョンがあっても意味はない。」
(ビジョナリーカンパニー2 P66~P67)
この考え方によれば戦略よりもまずは人材、組織が重要であることになります。
まず最初に同じ志を持った人間が集まる必要があるといいます。
その時点にズレがあるともしも意見が対立した時に組織は崩壊してしまいます。逆に同じベクトルでさえあれば、やり方が変わっても同じ方向を向いているので「何とかしよう」という動きになります。
求めることが一致していれば目的達成のための手段である「戦略」はあとでもいい、という考え方で、これまた理に適っています。
■ どちらも正しく、どちらも重要
これら2つの考え方は「どちらが正しいか」ということはなく、時代やその時々に置かれた立場で主となるものが替わるのだと思います。
いちおう、マネジメントは1973年の発刊(※「エッセンシャル版」は2001年発刊)、ビジョナリーカンパニー2は2001年の発刊なので、複雑な現代社会では後者(戦略は~)の考え方をベースにした方がいいかもしれないです。
しかしながらドラッカーは次のようにも述べています。
「組織構造の設計は、理想からスタートすべきか、現実からスタートすべきかが長い間議論されてきた。(中略)だが、この問いには意味がない。いずれのアプローチも必要である。並行して使わなくてはならない。」
(マネジメント エッセンシャル版 P216)
ドラッカー式の結論は「組織も戦略も、どちらが先でもなく、どちらも重要」ということでしょう。
両方の考え方を理解し、置かれた立場で柔軟に取り入れるとよいと思います。